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神戸地方裁判所 平成8年(行ク)4号 決定

申立人

田靡清(X1)

田靡ひでの(X2)

吉岡勲(X3)

吉岡恵津子(X4)

申立人ら代理人弁護士

山崎喜代志

大西淳二

乗鞍良彦

渡部吉泰

被申立人

姫路市建築主事 八木敏昭(Y)

右指定代理人

一谷好文

長田賢治

門田要輔

辰田肇

米田金満

井上眞一

大西龍一

川島正照

理由

二 当裁判所の判断

1  一件記録によると、次の事実が一応認められる。

一  被申立人は、昭和住宅株式会社が、姫路市白国三丁目四三四番一のうち一部、同所四三四番二、同所四三六番一のうち一部に所在する土地一八七六・九三平方メートル(以下「本件土地」という。)上に、鉄筋コンクリート造地上一〇階地下一階建の共同住宅(以下「本件建物」という。)を建築するために建築確認の申請をしたのに対し、平成七年一月六日付けA九三二号をもって建築確認処分(以下「本件処分」という。)を行った。

二  兵庫県姫路土木事務所長は、本件処分に先立つ平成三年一一月八日、兵庫県知事から委託を受けて、都市計画法上、市街化調整区域に指定された区域内にある本件土地について、都市計画法四三条一項六号ロに定める既存宅地の確認処分をした。

三  申立人らは、いずれも本件建物の隣接地に居住する者で、本件建物との最短距離は三ないし八メートルであり、申立人田靡清以外の申立人らは、本件建物の完成により、著しく日照が妨げられる。そして、申立人らは、既に当庁に被申立人を被告として、本件処分の取消しを求める訴え(当庁平成七年(行ウ)第二六号、以下「本案事件」という。)を提起している。

2  申立人適格について

一  被申立人は、申立人らには、法律上の権利又は法律上保護された利益を有しないから、本案である本件処分の取消しを求める訴えの原告適格がなく、従って本件申立人の申立人となることはできないと主張するので、検討する。

二  行政事件訴訟法二五条二項に定める執行停止申立事件について申立人適格を有するのは、処分の取消しを求める本案訴訟において「法律上の利益を有する者」であるところ、右「法律上の利益」とは、行政法規が私人等権利主体の個別、具体的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益をいうものと解される。

建築基準法は、「国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。」(一条)と規定しているところから明らかなとおり、一般的な生活環境の保全という利益の維持増進を目的としているものであるが、これにとどまらず、同法五五条、五六条、五六条の二などの規定を併せ考えると、同法は、日照、防災及び衛生といった近隣住民の個別、具体的な生活利益をも保護しようとする趣旨であると解される。そして、建築確認は申請にかかる建物が建築基準法又は地の建築物に関する法令上の規制に適合するかどうかを審査して公権的に確認する行政処分であると解される。

本件建物が建築されることにより、申立人らに日照障害が生じるところ、申立人らは、この障害やプライバシー、通風の侵害が生じることを前提として、本件建物の近隣住民として、本案事件及び本件申立をしているのであるから、建築基準法の保護の対象である日照等の個別、具体的利益が侵害され、又は侵害されるおそれのある者として本件処分の是正を求める者であり、本件申立の適格を有するというべきである。

三  被申立人は、本件建物の敷地が用途地域の指定のない区域に属するから、当該区域の日照が個別具体的に保護されてはいないとして、本件申立は不適法である旨主張するが、生活利益の侵害であるか否かは、侵害された又は侵害される生活利益の性質、程度、周囲の客観的状況等を総合的に判断して決すべきものであり、用途地域の指定のない区域であるからといって、どのような日照障害等を受けたとしても生活利益の侵害がないということはできない。

したがって、本件申立につき申立人らは申立人適格を欠くものではないと認めるのが相当である。

3  回復の困難な損害を避けるための緊急の必要について

一  申立人らは、本件建物の完成により回復困難な損害を被ると主張し、その具体的な原因として、〈1〉日照が妨害されること、〈2〉通風が阻害されること、〈3〉プライバシーの侵害を受けること、〈4〉生活排水による環境悪化を挙げるので、以下この点について判断する。

二  日照について

なるほど、本件建物の完成により冬至期に開口部において受けられる日照は、申立人吉岡勲及び同吉岡恵津子においては、午後一時三〇分ころから午後二時一〇分ころまでの約四〇分であり、申立人田靡ひでのにおいては午前一〇時三〇分ころから午後一時一五分までの約三時間であることが、一応認められる。

しかし、他方、本件建物は平成八年六月に完成予定であり、躯体工事はほぼ完成していることが一応認められるのであり、申立人らに新たに回復困難な損害が生じるとは認められない。

申立人らは、現在の日照妨害も回復困難な損害であり、これを認めなければ既成事実を強引に作り上げたものを利することになって不公平であると主張するが、本件建物が建築基準法に違反するものであれば、当然に除却されるものであり、申立人らの損害は回復されるものであって、回復困難ともいいがたい。

三  通風の阻害について

本件建物の建設によって、通風の阻害が生ずるか否かについては、これを肯認するに足りる疎明はない。

四  プライバシーの侵害について

本件建物の住人によって付近居住者たる申立人らの日常生活がどの程度まで見られるに至るかについては、具体的な疎明はない。

五  生活排水による環境悪化について

本件建物の生活排水は、公的規制に適った合併浄化槽を通じて増位川に放流されると一応認められ、反対に、どの程度の環境悪化が生ずるに至るかについては具体的な疎明はない。

六  以上のとおり、結局、本件申立は、申立人らの被る回復困難な損害についての疎明がないことに帰するというほかはない。

4  結論

よって、その余の点について判断するまでもなく、申立人らの本件申立は理由がないからこれを却下することとし、申立費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 下村眞美 桃崎剛)

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